T:はじめに

1.コケ植物とは
 コケ植物は、植物分類上の1つの門で、蘚苔類(せんたいるい)とも言う。緑色植物の一群であり、系統上藻類とシダ植物の中間に位置する胞子植物である。

 植物本体は、ほとんど完全に陸上生活に適応しているが、有性生殖の際に精子が水中を泳いで卵細胞に達する。卵細胞は、発達して胞子体をつくる。胞子体上部は、凵iさく)となり、その中で減数分裂を経て、多くの胞子が形成される。

2.剋普iさくし)とは 
  コケ植物は、蘚類(せんるい)・苔類(たいるい)・ツノゴケ類の三群に含まれる植物の総称であり、この三群の中で、蘚類の凾セけに剋浮ニいう歯状構造をしたものがみられる。
この剋浮ヘ「凵vと呼ばれる胞子嚢(ほうしのう)の口部にあり、剋浮ェ開閉することで胞子の散布を調節している。
 S. R. エドワード(1984)は、蘚類の剋浮フ形態は、目、科といった大きな分類群の定義を考えていく際や、それらの間の系統関係を追及する際に重要な根拠となるものであると、している。
 剋浮ヘ、これまでの研究において、種々の型に分けられており、野口(1978)は、ハイゴケ型剋浮ネどの内外2列の剋浮ゥらなるものを、Funaria型、Bryum型、Orthotrichum型、Neckera型、Hypnum型、外剋舞゙化型など、6つの型に分け、その1つに、Neckera型を認めているが、ヒラゴケ型剋浮ェどのようにハイゴケ型剋浮ニ区別されるのか厳密な検討は行われていなかった。

3.ヒラゴケ型剋浮ニは
 ヒラゴケ型剋浮フ基本的形態の特徴は、野口(1976)によると、外剋浮フ発達がよくなく、外面のトラベキュラ間は、平滑か乳頭がでる。内剋浮ヘ、歯突起がわずかに発達し間毛を欠き、このような剋浮ヘ、ヒラゴケ型剋浮ニ呼ばれている。

4.日本産ヒラゴケ属とは
   Noguchi1989)は、日本産ヒラゴケ属として11種を認めている。野口(1976)は、ヒラゴケ属を次のような特徴を持つものと記述している.全体として、淡緑色で軟らかい感じで、亜茎は羽状に分枝することが多く、葉が密生して、やや扁平。葉形は、卵形から卵状長楕円形、ないし舌状まであり、鋭頭、または鈍頭、波状にしわよることが多い。葉縁には小鋸歯のある程度から全辺まである。中肋は1本で、かなり長いか、または叉分して短い。凾ヘ、沈生、または長柄をもち、卵状長楕円形。剋浮ヘ、2列で、外歯には小乳頭が密生、歯突起は線状で長い。

5.日本産ヒラゴケ属剋浮ノついて
 野口(1949)は、日本産ヒラゴケ属剋浮ノついて、属の検索の中で、以下のように記している。N. flexiramea Card. コメリンスゴケは,内剋浮フ歯突起は弱く、外剋浮ヘ線状披針形で細長く尖る。N. nakazimae (Ihs.) Nog. モロハヒラゴケは,内剋浮フ歯突起は弱く、外剋浮ヘ披針形で短い。N. konoi Broth. ex Card. タカネメリンスゴケについては、内剋浮フ歯突起は稍々丈夫である。
 西村・渡辺(1992)は19種のイヌマゴケ目を観察した際に、N. yezoana Besch. エゾヒラゴケについて観察をし、以下のことを記している。外剋賦O面のトラベキュラは低く、外剋浮フ外板上にはヴェルカ状〜バキュラ状の乳頭がでるが、剋撫纒狽ナより顕著である。外剋蕪燒ハのトラベキュラは顕著である。内板上には、外板と同様の乳頭が、剋撫纒狽ナより顕著にでる。内剋浮ヘ痕跡的で、外剋蕪燒ハのトラベキュラ上に付着し、その内面は細かい乳頭で覆われる。

6.本研究の目的
 以上のように、日本産ヒラゴケ属の剋浮ェ種間内ではどのように形態変化するかまだ厳密な検討はされていない。よって、本研究では、日本産ヒラゴケ属の剋浮フ表面形態が種間内でどのように変化するかを、走査型電子顕微鏡による観察で明らかにすることを目的とした。


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